
最近ニュースを騒がせている円安。US$1.00=151.94円は、32年ぶりの円安水準だそうです。(10月21日付)対台湾ドルも、同日TWD1.00=4.68円を付けました。

この急激な円安はなぜ起きているのでしょうか。その主な理由は、アメリカの金利上昇です。
ここ数年アメリカでは、史上稀にみる低金利でした。ただ同然で借りられた米ドルは、国内市場への投資にとどまらず、更に高い収益が求め海外市場へと投資され、いわゆる「ドルキャリー」が行われてきました。コロナ経済対策で約1000兆円相当の米ドルが投入されましたが、ドル安にはなりませんでした。これは新たな1000兆円相当のお金が、何の犠牲もなく創出されたことと同じであり、投資先の株価・不動産価格高騰の大きな要因となりました。
しかし今回のFRBによる金利引き上げがひとつのターニングポイントとなります。利上げにより、これまでただ同然だった米ドルの借り入れコストが上がりますので、海外での投資を利確し、米ドルを返す動き、いわゆるドルキャリーの巻き戻しが一気に加速しました。資金が引き上げられた海外株式市場は下落し、巻き戻しで米ドルは買われドル高に、売られた外貨は日本円も含め安くなりました。
今から約20年前、「円キャリー」と呼ばれる同様の動きがございました。当時は金利の安い日本円が借り入れの対象で、リーマンショック以降は巻き戻しにより一気に円高になりました。
非常に安定していたドル円相場
最近でこそ急激な円安に振れておりますが、もともとドル円の関係は非常に安定していました。下表は、過去22年間の各年1月終値をまとめたものです。
年 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 |
円 | 116.59 | 134.72 | 119.91 | 105.71 | 103.67 | 117.25 | 120.67 | 106.36 | 89.99 | 90.31 | 81.17 |
年 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 |
円 | 79.77 | 91.72 | 102.03 | 117.44 | 121.03 | 112.78 | 109.17 | 108.87 | 108.38 | 110.7 | 115.1 |
この間ITバブル、リーマンショック、ユーロ危機、東日本大震災など、様々な出来事がありましたが、その時々で円安・円高に振れることはあっても、おおよそUS$1.00=100円±20円の範囲でおさまってきたのがこれまでのドル円相場でした。(参照データ:https://jp.investing.com/currencies/usd-jpy-historical-data)しかし今回は、米国に金利引き上げをきっかけに、久しぶりにこのレンジをはみ出してきたのです。
円安を歓迎する人とは
ちなみに円安を歓迎する人も世の中にはおります。それは外貨を保有している人たちです。台湾ドルを保有する駐在員にとっても、円安が悪いとも言いきれません。去年の今頃は、TWD1.00=4.08円でしたから、1年で10%以上台湾ドルが上がった計算です。

日本円は、台湾ドル以外にも、米ドルや中国元など多くの外貨に対して円安傾向です。日本を訪れる外国人にとって、日本は色々なものがより安く購入できる国となりました。(ここでは通貨のインフレは加味せず、為替だけを取り上げています。)
通貨 | 2021年4月15日 | 2022年4月19日 | 2022年10月21日 | 4月からの変動幅 |
---|---|---|---|---|
1台湾ドル | 3.83円 | 4.42円 | 4.71円 | +22.9% |
1米ドル | 108.69円 | 129.30円 | 151.94円 | +39.7% |
1中国元 | 16.66円 | 20.21円 | 20.65円 | +23.9% |
他には、日本で商品を製造し輸出している企業は、円安は海外での価格競争力アップに繋がります。例えば10万円の電気製品を輸出している企業があったとします。1年前は、US$1.00=108.69円ですから、海外でUS$920で販売していたものが、US$1.00=151.94円になったことで、US$658で販売しても円ベースでは同じ10万円の売り上げです。つまり262ドルも価格を下げて販売することが可能になりますから、競争力の向上と言えます。かつて日本の製造業は、この円安によりメリットを享受しておりましたが、最近は工場の多くが海外にシフトしているため、円安効果は限定的になってきています。
円安を歓迎しない人とは
では次に、円安を歓迎しない人は誰でしょうか。日本からの海外旅行者には、旅行先の色々なモノが今まで以上に割高になるので円安は残念です。そして海外からの輸入品も値上がりします。海外から原材料を輸入している製造業は、コスト増で利益を減らすか、商品価格に転嫁することになります。日本は資源の多くを輸入に頼っているため、円安=製造コスト増=物価上昇に直結しやすい産業構造と言えます。
これからのドル円
あくまで個人的な意見ですが、しばらくすると世間の風潮は「円安は悪」という方向に一旦は向かうと思います。少しずつ色々な商品や食料、電車賃などの値上げが始まっています。一方お給料は上がってないため、インフレというよりは、景気が悪いのに物価が上がる「スタグフレーション」に近い状況です。この円安による影響がさらにメディア等で取り上げられるようになると、日銀も政府も重い腰を上げ、何かしらの円安対策を取ることになるかもしれません。
では今の円安に歯止めをかけるために、考えられる方法は大きく3つです。
1つ目は、一番の理想の形ですが、日本の経済、そして日本企業が、投資したいと思える国・企業になることです。日本企業が更に収益力を高め、Japan As No.1と言われた80・90年代の頃のように、魅力的な製品やサービスを世界に提供できれば、景気はよくなり、金利も自然に上がり、日本への出資・融資や債券投資も増え、自然と円高になるはずです。ただしこれは、中長期的なスパンで官民一体で取り組むべき課題です。
2つは日本円を買う、つまり為替介入です。日本には1兆2380億ドル(2022年9月末時点)の外貨準備金がありますので、これを使い強制的に円高にする方法です。しかし1985年のプラザ合意で政府による為替介入はできなくなっているため、公にこの方法を使うことはできません。仮にできたとしても、準備金には限りがございますので、無制限に介入し続けることは実質不可能です。(その後9月と10月に介入しましたが、その成果は残念ながら限定的?!)
円高の是正は最後はお金を刷ってしまえばよいので、実質無制限に介入ができます。一方円安の是正は、円を買うために外貨が必要です。1兆2380億ドルの外貨準備金も、ほとんどが米国債で、為替介入に使える外貨は20兆円分程度とも言われております。
そして3つ目の方法は、「米ドル同様金利を上げ、日本円の魅力を上げること」です。しかし円の金利が上がると、困る企業が増えます。これまで低金利の恩恵で受けてきた、世界相手には戦えない企業、本来であれば既に経営破綻してもおかしくないような企業は、金利上昇をきっかけに淘汰されるでしょう。住宅ローンを変動金利で借りている方も、金利負担増の影響を受けます。もちろん国債しかりです。金利上昇は、日本経済全体にかなり痛みを伴うので、どこまで断行できるのかは未知数ですが、その選択の可能性も考慮しておきたいです。
私たちができること
円安は、私たちにとってよい面も悪い面も両方ございます。そして為替は一定のトレンドはあっても、一方向に上がり続けたり、下がり続けることもなく、必ず上下変動します。そして単純に国の経済力を表すでもなく、投機マネーや様々な思惑によって常に変動しています。
それらを踏まえ、私たちはどのように備えればよいでしょうか。
答えは、「為替は予想できない」を前提に、円安と円高のどちらに振れても大丈夫なように対策しておくことです。昨今であれば、円安の時に増える資産、つまり外貨建て資産を保有しておくことが、為替リスクへのヘッジになります。
極端な例ですが、もしあなたが、保有する資産の1/2を円資産に、残り1/2を米ドル建て資産にしておくとします。
もしドル高円安になれば、ドル建て資産が増え円資産は減ります。
もしドル安円高になれば、円資産が増えドル建て資産が減ります。
これは一方が増え一方が減るため、ドル高円安・ドル安円高のどちらに振れても、増えた資産で、減った資産を買い戻せば、トータルではプラスマイナスゼロとなり、全体では保有資産に増減がなくなります。

資産運用の原点は、資産を守ること(減らさないこと)です。
為替(FX)で資産を増やすことも可能ですが、それは上がるか下がるか1/2のギャンブルと一緒です。資産運用の王道は、ご自身が許容できるリスクに応じて、金融資産(株式・債券)や不動産と言ったお金を産むものを活用することです。
台湾にお住まい方は、保有する台湾ドルにより、今回の円安に対するリスク軽減が少なからずできていると言えます。こういったリスク分散を、海外在住時の一時的なものではなく、日本ご帰国後も継続していただけるとよいでしょう。そして台湾ドルだけでなく、米ドルや、ユーロ、中国元などにも分散できると、そのリスク分散効果は上がります。
更に預金(現金)保有だけでなく、許容リスクに応じた運用、例えば香港の米ドル建て貯蓄型保険や投資信託、株式投資などを併用すれば、通貨ヘッジのみならず、インフレヘッジ、カントリーリスクへの対処と、効果的な資産形成が可能です。
資産運用に関するご質問やお問い合わせは、是非お気軽に無料オンライン相談をご利用ください。